忍者ブログ
此方は漫画家・吉原基貴のブログです。 HP・Twitterと併せてお楽しみいただければ幸いです。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

今年も雪が降った。
積雪とまではいかないが、冬という季節を味わわせてくれた。
しかしこの程度の雪では、雪だるまは到底作れまい。
一見なにやら奇妙な言い回しに聴こえるかもしれないが、僕にとって、これは安堵すべき事態なのだ。

雪だるまには、穏やかならぬ因縁がある。

5歳の頃、父の仕事の都合で、僕ら家族は、アメリカ合衆国はイリノイ州の郊外に棲んでいた。
車で一時間ほどで大都市シカゴが見える。
当時の記憶といえば、名画『バック・トゥー・ザ・フューチャー』が大ヒットを飛ばしており、カーラジオからはマイケル・ジャクソンの『BAD』や、スティービー・ワンダーの軽快で心根に染みるサウンドが流れていた。
まだインターネットなどの先端技術は浸透しておらず、幼稚園児の時分ではとてもじゃあないが全米や世界の事情など把握も認識も出来ていなかった。
そんな僕の周囲では、『キッドナップ(子供攫い)』が多発していた。
バブル経済により、貧富の差が顕著に表れ、窃盗や強盗・誘拐や身代金などの事件が後を絶たない時代に突入していた。
家族は恐怖し、子供を独りで外出させてはいけないという地域の決まりごとが出来ていた。
僕の住む家には走り回れる程度の庭があったが、両親が揃い見守る時の他は、思い切り遊ぶことは出来なかった。父は忙しく、滅多に顔を見ることはなかった。

ある冬の日、目が覚めて窓から外を見たら、雪が積もっていた。
僕と兄と弟は、その一面の白い景色に心が躍った。気持ちをおさえる事が出来なかった。
喚く僕らを見た母は観念し、父が留守なのにかかわらず、僕らは庭に出る事を許された。
張り詰めた冬の朝の空気と雪のしっとりとした鋭い感触に、いつにも増して開放的な気分になった。
一頻りはしゃぎきって、僕らは雪だるまを作ることに決めた。

アメリカの雪だるまは、日本の二段式の雪だるまと違い、頭部・胴部・腰(脚)部の三段式になっている。
僕ら三人兄弟は、それぞれに部位を担当して、雪だるまを創作していった。胴部の両端に木の枝を挿し、頭部に木炭を二つ。中央に人参をつけて、雪だるまは完成した。
何かを成し遂げた達成感と、僕らの等身ほどあるその姿に、気分は更に高揚し、雪だるまの周囲をかけまわったり話しかけたりした。童話のように、雪だるまは今にもう動いてくれそうに感じていた。
ところが、雪だるまは何の返事もなかった。ピクリともしなかった。
そのうち、何故か僕は腹が立ってきて、雪だるまを蹴った。硬く丸めた雪が削れる事で、幾分気分が晴れたのか、僕は何度も雪だるまを蹴った。
そのうち、日が暮れかけ、僕らは家に入ることにした。

夜になると父が帰ってきた、庭先にある歪な雪だるまを目にして、妙に思ったのか、僕らに理由を問いただした。
事情を理解するなり、父は言った。
『大変な事をしてしまったな』
僕は、何の事をい言っているのかわからなかった。
父の顔は真剣だった。父は言葉を続けた。
『雪だるまは、傷をつけた人を呪うんだ。手で殴ったら、手を呪ってそいつを同じ目に遭わせる。お前は、何度も足で蹴ったな。雪だるまの呪いで、脚が腐っておちるぞ』
僕は全身が震えた。腐るという言葉の響きが、子供心に恐怖を増大させた。後悔と恐怖で涙が出てきた。
僕はどうすればいいのか、泣き喚きながら父に訊いた。
『いっしょうけんめい、あやまりなさい』
と、父は教えてくれた。
窓から、雪だるまが見えた。僕は泣きながら、雪だるまへ向かって、ごめんなさい、もうしませんと謝り続けた。
徐々に溶け、形状を崩してゆく雪だるまが、腐りおちていく時分の脚を連想させた。その恐怖に心底怯え、僕は一晩中窓から謝り続けた。

気がつくと、僕はベッドの中で、はっとして脚を弄り確かめた。脚は無事ついていた。
父や母に言うと、きっと一生懸命謝ったから、許してくれたのだと、笑いながら応えてくれた。
窓の外には、跡形も無い雪だるまの残骸が転がっていた。


あの時以来、僕は雪だるまを創るのも、観ることも苦手になったのだった。




PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[11/21 左]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
yoshiharamotoki
年齢:
44
HP:
性別:
男性
誕生日:
1980/04/28
職業:
漫画家
趣味:
格闘ゲーム(3rd strike)
バーコード
ブログ内検索
P R
アクセス解析
アクセス解析
忍者ブログ [PR]